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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)216号 判決 1999年5月20日

名古屋市中区栄5丁目18番11号

原告

株式会社丸善製作所

代表者代表取締役

丹羽健二

訴訟代理人弁護士

纐纈和義

林和宏

同 弁理士

三宅始

鈴木隆盛

大阪市城東区東中浜5丁目1番15号

被告

株式会社東具

代表者代表取締役

久米幸

訴訟代理人弁理士

佐當彌太郎

"

主文

特許庁が平成9年審判第19474号事件について平成10年5月27日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

主文と同旨

2  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、考案の名称を「表示装置」とする実用新案登録第2006094号考案(平成2年8月21日実用新案登録出願、平成5年4月30日出願公告、平成6年2月14日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権者である。

原告は、平成9年11月14日、被告から、上記実用新案登録の無効の審判の請求を受け、平成9年審判第19474号事件として審理された結果、平成10年5月27日に「登録第2006094号実用新案の登録を無効とする。」との審決を受け、平成10年6月25日にその謄本の送達を受けた。

2  本件考案の実用新案登録請求の範囲

(1)  訂正前

ばね弾力により挟み片対を閉じる一対の可動片の一側のハンドル部片から球状突起を突出して成るクリップ本体と、両端面に前記の球状突起に合致する截頭球状凹面を設けると共にその各截頭球状凹面に前記クリップ本体等の球状突起等を緊密にかつ回転自由に嵌める筒形片と、該筒形片の截頭球状凹面に回転自由に嵌める球状突起を設けたカード挟み本体若しくは前記クリップ本体と同形のカード挟み本体とからなることを特徴とする表示装置。

(2)  訂正後

ばね弾力により挟み片対を閉じる一対の可動片の一側のハンドル部片から短い頸部を持つ球状突起を突出して成るクリップ本体と、両端面に前記の球状突起に合致する載頭球状凹面を設けると共に一方の截頭球状凹面に前記頚部を直角まで曲げて嵌める欠溝を設けその各截頭球状凹面に前記クリップ本体等の球状突起等を前記頸部との連結部が前記端面の外側に位置するように、緊密にかつ回転自由に嵌める筒形片と、短い頸部を持ち、前記筒形片の截頭球状凹面に前記頸部との連結部が前記筒形片の端面の外側に位置するように、回転自由に嵌める球状突起を設けたカード挟み本体若しくは前記クリップ本体と同形のカード挟み本体とからなることを特徴とする表示装置。

3  審決の理由

別添審決書の理由の写しのとおり

4  審決を取り消すべき事由

(1)  原告は、本訴の係属中である平成10年11月20日に本件考案に係る実用新案登録出願の願書添付の明細書の訂正(以下「本件訂正」という。)をすることについて審判を請求し、平成10年審判第39080号事件として審理された結果、平成11年1月18日に「登録第2006094号実用新案の明細書及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書及び図面のとおり訂正することを認める。」との審決を受け、これが確定した。本件考案の訂正前の実用新案登録請求の範囲は、前記2(1)のとおりであり、本件訂正後のそれは、前記2(2)のとおりである。

(2)  本件訂正を認めた審決は、本件訂正が実用新案登録請求の範囲を減縮するものであって、実用新案登録請求の範囲を拡張し又は変更するものではないこと、また、本件訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されている事項により構成される考案が、実用新案登録出願の際に独立して実用新案登録を受けることができない考案ではないことを認定して、本件訂正を認めたものであるから、本件発明の技術内容は、本件訂正後の実用新案登録請求の範囲に基づいて認定されなければならない。

しかるに、審決は、本件考案の技術内容を本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に基づいて認定したものであるから誤っており、この誤りは審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

第3  請求の原因に対する認否

請求の原因1ないし3、4(1)は認め、4(2)は争う。

理由

1  請求の原因1ないし3、同4(1)は、当事者間に争いがない。

2  審決を取り消すべき事由について判断する。

上記当事者間に争いがない請求の原因4(1)によれば、本件考案の技術内容は、本件訂正後の実用新案登録請求の範囲に基づいて認定されるべきところ、審決は、本件訂正前の実用新案登録請求の範囲に基づいて本件考案の技術内容を認定したものであるから、違法といわざるをえず、この違法は審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。

3  よって、原告の本訴請求は、理由があるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年5月6日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

1. 手続の経緯・本件考案

本件登録第2006094号実用新案の請求項1に係る考案(平成2年8月21日出願、平成6年2月14日設定登録。以下「本件考案」という。)は、明細書及び図面の記載からみて、

「ばね弾力により挟み片対を閉じる一対の可動片の一側のハンドル部片から球状突起を突出して成るクリツプ本体と、両端面に前記の球状突起に合致する截頭球状凹面を設けると共にその各截頭球状凹面に前記クリツプ本体等の球状突起等を緊密にかつ回転自由に嵌める筒形片と、該筒形片の截頭球状凹面に回転自由に嵌める球状突起を設けたカード挟み本体若しくは前記クリツプ本体と同形のカード挟み本体とからなることを特徴とする表示装置。」

にあるものと認める。

なお、請求項1には「一側のハンドル部片から球条突起」と記載されているが、該「球条突起」は「球状突起」の誤記と認め、本件考案を上記のように認定した。

2. 証拠

これに対して、請求人の提出した本件考案の出願前日本国内に頒布された刊行物である甲第4号証(実公昭40-25486号公報)には、

「本案は適当の材料で造った額縁内に合成樹脂製等の透明挾み板を挾入し、この内に家族等の写真又は交通事故防止等を記載した標示板を挿入し、最内部に乳白色台紙を挾着し、又額縁にはばね附ユニバーサルヂョイントを有する取付杆を設け、この取付杆には開閉自在のばね附挾持体を附設した写真挾みに係るものである。

図中1は適当の材料で造つた額縁を示し、この額縁1内には透明合成樹脂製挾み板2を挾入し、この挾み板2の内部に家族の写真又は交通事故防止用標語等の標示板3を表裏に挾入し、更にその中央に乳白色台紙4を挾着するもので、而して額縁1の下部中央に球受部5を突設する。6はゴム合成樹脂、金属その他適当の材料で造つた取付杆で、取付杆6の下端には挾持体の一半7を固定しこの挾持体7の他半8は枢軸9により挾持体7に枢着すると共に両取付体間にばね10を介装する。11はこのばね10の取付兼張開用把片である。12は取付杆6の内端に附設し球受部5を嵌入するようになした球状体で、球受部5に凹部13を設け、ばね14を嵌合する。

本案は以上のような構成となしたもので、主として自動車内に取付け、或はその他適当の個所に取付け使用する。」(同公報第1頁、考案の詳細な説明の項の第1ないし第3段落)と記載されている。また、第1図ないし第3図には、挾持体の一半7側の張開用把片から延出する突起が取付杆6に固定されている構成が示されている。

同甲第5号証(実公昭43-11541号公報)には、

「車検標をケース内に挿入し、該ケース及びその取付基板にT状に切欠した摺動溝を有する自由接手を固定し、これに球状部を両端に形成したL状の保持腕を各々嵌合し、表示ケースと取付基板とを連結して、車検標をケースにより保護表示し、且つ該表示ケースを適時位置への転向自在を可能とした車検標表示装置」(同公報第1頁、考案の詳細な説明の項の第3段落)が記載されている。

3. 対比

本件考案と甲第4号証に記載のものとを比較すると、甲第4号証に記載のものにおける「挾持体の一半7、他半8」が本件考案における「一対の可動片」に、同じく「張開用把片」が「ハンドル部片」に、「挾持体」が「クリツプ本体」に、「球状体」が「截頭球状凹面」に、「球受部」が「球状突起」に、「透明挾み板を挾入した額縁」が「カード挟み本体」に、「写真挾み」が「表示装置」にそれぞれ相当する。そして、甲第4号証に記載のものにおける「取付杆」と本件考案における「筒形片」は、共にカード挟み本体とクリツプ本体とを連結保持する「保持体」という概念で共通している。

したがって、両者は、

「ばね弾力により挟み片対を閉じる一対の可動片の一側のハンドル部片から突起を突出して成るクリツプ本体と、端面に截頭球状凹面を設けると共に前記クリツプ本体の突起を連結保持する保持体と、該保持体の截頭球状凹面に回転自由に嵌める球状突起を設けたカード挟み本体とからなる表示装置」である点で一致し、

本件考案が、クリツプ本体側の突起を「球状突起」とし、且つ、保持体を「両端面に前記の球状突起に合致する截頭球状凹面を設けると共にその各截頭球状凹面に前記クリツプ本体等の球状突起等を緊密にかつ回転自由に嵌める筒形片」に構成することにより、保持体の両端の連結部が共に回転自由に変位するようにしたものであるのに対し、甲第4号証に記載のものは、クリツプ本体側の突起を保持体の端に単に固定した構成のため、保持体の一方端の連結部のみが回転自由に変位するものである点で相違する。

4. 当審の判断

上記の相違点について検討する。

甲第5号証には、表示ケース部と取付基部とその両者を連結保持する保持体とからなる表示装置において、該保持体の両端に転向可能な連結部を設けることにより表示ケース部を適宜位置へ自由に回動しうるようにした技術思想が記載されている。

甲第4号証及び甲第5号証に記載のものは、いずれも表示装置という同一の技術分野に属し、しかも、表示部を見易い位置に変位させるという共通の課題を有するものであるから、甲第4号証に記載のものに、上記甲第5号証に記載の技術思想を適用して、保持体の両端の連結部が共に回転自由に変位するように改変することは当業者がきわめて容易になしうる程度のことである。

その際、クリツプ本体と保持体との連結構造を、カード挟み本体と保持体とのそれと同様の関係、即ち、保持体側に截頭球状凹面を設け、他方側に該截頭球状凹面に回転自由に嵌める球状突起を設けるようにすることは単なる設計的事項にすぎない。

したがって、上記相違点は格別のものではない。

なお、被請求人は、答弁書において、本件考案では成形に要する材料の多いクリップ本体に球状突起を設け、成形に要する材料の少ない筒形片に截頭球状凹面を設けたので、成形コストを大幅に節約でき、クリップ本体が嵩張らず使い勝手が良いと主張している。

しかし、上記の成形コストと使い勝手に関する効果は、甲第4号証に記載のものにおけるカード挟み本体と保持体との連結構造が既に有している効果と同様のものであり、上記連結構造をクリップ本体と保持体とのそれに適用した場合に当業者が当然予測しうる範囲のものに過ぎない。

以上のとおりであるので、本件考案は、甲第4号証及び甲第5号証に記載された内容に基いて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであり、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

5. むすび

したがって、本件考案の登録は、実用新案法第3条の規定に違反してされたものであり、同法第37条第1項の規定により、これを無効にすべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。

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